日本の神様の中でも指折りの知名度を誇る須佐之男命(スサノオノミコト:以後スサノオ)。
特に「ヤマタノオロチ退治」の神話で怪物・ヤマタノオロチを倒したことで有名です。
この「ヤマタノオロチ退治」の神話は、単なる怪物退治の物語というわけではなく、実は別の意味を持った神話だとされています。
この記事では、その「ヤマタノオロチ退治」の裏側にある別の意味について解説しています。
目次
ヤマタノオロチを倒したスサノオはどんな神様か簡単に解説!
まずヤマタノオロチを倒したスサノオとはどんな神様なのか、日本最古の歴史書『古事記』をもとに簡単に解説していきます。
『古事記』の神話をもとにしたスサノオの家系図
- 父・・・伊邪那岐神(イザナギノカミ:以後イザナギ)
- 母・・・伊邪那美神(イザナミノカミ:以後イザナミ)
- 姉・・・天照大御神(アマテラスオオミカミ:以後アマテラス)
- 兄・・・月読命(ツクヨミノミコト:以後ツクヨミ)
- 妻・・・櫛名田比売(クシナダヒメ:以後クシナダヒメ)
- 娘・・・須勢理毘売命(スセリビメ:以後スセリビメ)
- 子孫・・大国主命(オオクニヌシノミコト:以後オオクニヌシ)
スサノオは、日本の国土を生み出し、そこに住む神々を生み出した創造神・イザナギ(男神)の鼻から生まれました。
同じくイザナギの左目から生まれたアマテラスと、右目から生まれたツクヨミは兄妹にあたり、スサノオを含めたこの3柱の神を「三貴子」と言います。
父であるイザナギにはイザナミという妻がいましたが、スサノオら三貴子はいずれもイザナギ単体から生まれた神様です。
ただ、スサノオはイザナミのことを母だと思っているようです。
妻のクシナダヒメについては、この記事の中で登場する重要人物です。
スセリビメという娘がいますが、クシナダヒメが母というわけではなく、具体的にスサノオと誰の子供であるかはわかっていません。
なお、出雲大社に祀られる神様・オオクニヌシはスサノオの6代後の子孫とされ、のちにスサノオの娘・スセリビメと結婚します。
スサノオの誕生にまつわるイザナギについては、下記の記事でまとめていますので、併せて参考にしてみて下さい。
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『古事記』の神話からスサノオがどんな性格の神様なのか解説
この記事でもご紹介するように、スサノオは怪物ヤマタノオロチを退治した神様なので、強くて勇ましい英雄のようなイメージがあります。
しかし、イザナギから誕生したばかりの頃は「母が恋しい」と泣いてばかりでした。
そして、スサノオがあまりにも激しく泣くので、山は枯れ、海や川が干上がるといった災害を引き起こすほどでした。
その後、成長して天上世界の高天原(たかまがはら)にいる姉のアマテラスのもとを訪れますが、そこではやりたい放題に暴れまわりアマテラスを困らせてしまいます。
アマテラスは、スサノオのあまりにもひどい乱暴な行為に嫌気が差してしまい、ついには「天岩戸」に隠れて引きこもってしまいます。
これが有名な「天岩戸」神話です。
アマテラスが「天岩戸」に隠れて引きこもってしまう程のスサノオの暴れぶりについては、下記の記事を参考にしてみて下さい。
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アマテラスが神話で天岩戸に隠れた理由であるスサノオのひどい暴走について解説!
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このように、スサノオは英雄のようなイメージが強くありますが、もともとは泣き虫の幼子のような性格で、その後は暴力的で荒々しいガキ大将のような性格の神様だと言えるでしょう。
『古事記』の「ヤマタノオロチ退治」神話のあらすじを簡単に解説!
それではスサノオが英雄として称えられるようになった「ヤマタノオロチ退治」神話のあらすじを解説していきましょう。
ヤマタノオロチを倒す以前のスサノオの神話のストーリー
本題の「ヤマタノオロチ退治」神話に入る前に、まずは『古事記』に記されたスサノオの神話のストーリーを簡単に紹介します。
イザナギの鼻から生まれたスサノオは、母が恋しいと泣いてばかりいた為、イザナギから追放されてしまいます。
その後、天上世界の高天原(たかまがはら)にいる姉のアマテラスに会いに行きますが、そこで喧嘩となってしまいます。
喧嘩は収まったものの、スサノオは高天原で暴れまわりアマテラスを困らせてしまいます。
あまりにもひどいスサノオの暴行に耐えかねたアマテラスは、天岩戸に隠れて引きこもってしまいました。
太陽の神・アマテラスが隠れたことで世界は暗闇に包まれてしまい、数々の災害が起こるようになってしまったのです。
高天原の神々の活躍でアマテラスを天岩戸から出すことに成功し、元通りの光のある世界に戻りました。
ここで、数々の暴行を繰り返しアマテラスを追い詰めたスサノオは、様々な罰を与えられて高天原を追放されてしまいました。
ここでは簡単に紹介しましたが、もっと詳しく知りたい人は、ぜひ下記の記事をよんでみて下さい。
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アマテラスとスサノオの関係を解説!喧嘩になった誓約(うけい)の神話についても
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ヤマタノオロチ退治の神話はクシナダヒメとの恋愛物語
高天原を追放されたスサノオは、地上世界である葦原中国(あしはらのなかつくに)の出雲の国(現在の島根県)にある斐伊川(ひいがわ)の上流に降り立ちます。
すると川上から箸が流れてきたので、誰かいると思ったスサノオは、箸が流れてきた方へと向かいました。
するとそこには、老夫婦と美しい娘がいてシクシクと泣いていたのです。
気になったスサノオは泣いている理由を尋ねると、父の足名椎(アシナヅチ)がその訳を話しはじめました。
「私には8人の娘がいましたが、毎年同じ時期にヤマタノオロチという怪物がやってきて、娘を一人ずつ食べてしまうのです。そして、もうすぐその時期になるので、この最後の娘も食べられてしまうかと思うと、とても悲しくて泣いているのです」と答えました。
スサノオがヤマタノオロチについて尋ねると、アシナヅチは続けて「目はホオズキのように赤く、頭と尾が8つあり、その体には苔・檜・杉などが生え、大きさは8つの谷・8つの峰に及んでいて、腹は真っ赤に血がにじんでいます」と答えました。
それを聞いたスサノオは、自分がこの怪物ヤマタノオロチを倒すと言いました。
なぜ乱暴ばかりしていたスサノオが、ヤマタノオロチを倒してこの家族を救おうとしたのか?
それは、この美しい娘に一目惚れをして恋に落ちたからです。そしてこの娘こそ、のちの妻となるクシナダヒメなのです。
ヤマタノオロチの倒し方はヤシオリの酒が鍵:使った剣はアメノハバキリ
巨大な怪物ヤマタノオロチを倒すには、普通に戦ったのでは勝ち目がありません。
そこでスサノオは、アシナヅチ達に強い酒を作らせ、それを巨大な桶に入れたものを8つ用意させました。
また、ヤマタノオロチが頭をくぐらせる門を8つ作らせ、その門の近くに先程の酒の入った桶を置きました。
なお、この時に作られた酒を「八塩折之酒(ヤシオリ)」と言います。
ちなみに、この時クシナダヒメを守る為に、クシナダヒメを櫛(くし)に変えて自分の髪に刺しました。
※クシナダヒメを櫛(くし)に変える
こうしてヤシオリの酒を用意して待ち構えていると、その酒に誘われたかのようにヤマタノオロチが現れます。
そして、ヤマタノオロチが用意していたヤシオリの酒を飲み始めると、酔っ払って眠ってしまいました。
その瞬間を待ち構えていたスサノオは、眠っている隙きにヤマタノオロチの首を斬っていき、ついにヤマタノオロチを倒すことが出来たのです。
この時、スサノオが使った剣を「天之羽々斬剣(アメノハバキリノツルギ)」と言います。
この「ヤマタノオロチ退治」の神話をアニメにした動画がありますので、ぜひこちらも御覧ください。
ヤマタノオロチの正体は実在する川?スサノオが倒したのはどんな意味があるかを解説!
さて、冒頭でもお伝えしたように、「ヤマタノオロチ退治」神話は単なる怪物退治のストーリーではなく、別の意味を持った神話です。
その別の意味について解説していきます。
ヤマタノオロチの正体は島根県の斐伊川(ひいがわ):どういう意味か解説
ヤマタノオロチは頭が8つある巨大な大蛇の怪物のように描かれますが、実はこのヤマタノオロチの正体は、スサノオが降り立った出雲の国(島根県)の斐伊川(ひいがわ)そのものを指しています。
ヤマタノオロチの正体が斐伊川であることを、姿・形から解説
どういう意味か、まずヤマタノオロチの姿から解説します。
頭が8つというのは、支流が多くある斐伊川の特徴を表しており、体に生えた苔・檜・杉は斐伊川の川岸を表現していると言えます。
また、8つの谷と峰は斐伊川の長さを、血で赤く染まった腹は鉄分を多く含んで赤みがかった斐伊川の水質を表しています。
このように、斐伊川の特徴をヤマタノオロチという怪物の姿・形になぞらえて表現しているのです。
なぜ斐伊川をヤマタノオロチの正体として表現したか、その意味を解説
なぜ斐伊川を怪物ヤマタノオロチの正体として表現したのかというと、支流の多い斐伊川は毎年のように氾濫し、洪水の為に多くの犠牲が出ていたようです。
つまり、斐伊川をヤマタノオロチという怪物として表現した意味は、その洪水という自然災害の恐ろしさを知らしめる為だったと考えられています。
スサノオがヤマタノオロチを倒したのはどんな意味があるか解説
さて、正体は斐伊川とされるヤマタノオロチを、スサノオが倒したのはどんな意味があるかについて解説します。
スサノオがヤマタノオロチを倒すために立てた作戦は、門を建てヤマタノオロチの頭を固定し、ヤシオリの酒を飲ませヤマタノオロチを眠らせ、その隙きをついて倒すというものでした。
これを斐伊川に置き換えてみると、
- 「門」:ヤマタノオロチの頭を固定・・・「堤防」:洪水被害を抑える
- 「ヤシオリの酒」:ヤマタノオロチを眠らせる・・・「堰(せき)」:川の流れを緩める
というように、河川の氾濫・洪水対策の治水工事をすることで、斐伊川が引き起こす災害を鎮めたと言えるでしょう。
つまり、スサノオがヤマタノオロチを倒したのは、治水工事の大切さ・自然災害への供えの重要性を示している、という意味があります。
ヤマタノオロチの正体は盗賊団?:様々な説を紹介
このように、ヤマタノオロチの正体は斐伊川の事を指すとお伝えしましたが、これ以外にもヤマタノオロチの正体については様々な説がありますので、それについて簡単に紹介します。
ヤマタノオロチの正体は「盗賊団」説
ヤマタノオロチの正体は、毎年収穫の時期を狙って村を襲う盗賊団のことを指しているのではないか、という説もあります。
娘がヤマタノオロチに食べられてしまうというのは、その盗賊団に人がさらわれてしまう事を意味しているのではないか、というものです。
古代において数字の8は「たくさんの」という意味もあるので、こういった盗賊団が複数いたか、あるいは大規模な盗賊団がいたのかもしれません。
ヤマタノオロチの正体は「出雲の国そのもの」説
ヤマタノオロチの正体は、当時の出雲の国そのものを表しているのではないか、という説もあります。
古代においては、出雲の国は大和政権に匹敵するほどの勢力を持っていたとされます。
『古事記』は当時の大和政権が編纂したもので、いわば出雲の国はライバルともいえる存在です。
その出雲の国をヤマタノオロチに見立て、もともと天上世界の神であるスサノオを大和政権として考えると、大和政権が出雲の国を服属させたことを意味しているのではないか、というものです。
ヤマタノオロチを倒したスサノオのその後のストーリーを解説!
さて、ヤマタノオロチを倒したスサノオの、その後のストーリーを解説していきましょう。
ヤマタノオロチを倒した後に三種の神器・草薙剣を手に入れる
スサノオがヤマタノオロチの頭を斬り、とどめを刺すために尾をアメノハバキリで斬ろうとしたところ、何か硬いモノに当たりました。
何かと思ったスサノオが、その硬いモノをヤマタノオロチから取り出すと、なんとそれは剣でした。
そのヤマタノオロチから出てきた剣こそ、現在の皇室にも伝わる三種の神器のひとつ・草薙剣(くさなぎのつるぎ)です。
この草薙剣を手に入れたスサノオは、これを高天原にいる姉のアマテラスに献上することにしました。
これまで、暴力的でアマテラスを悩ませることばかりしていたスサノオですが、この場面から精神的な強さも身につけ成長していることがわかります。
クシナダヒメと結婚し子孫繁栄:スサノオの子孫は出雲大社の大国主命(オオクニヌシノミコト)
ヤマタノオロチを倒したことで、スサノオは愛するクシナダヒメを救うことが出来ました。
そしてスサノオとクシナダヒメは結婚して、須賀(すが)という地で共に住む宮殿を建てて暮らしました。
そこでスサノオは「ここに来て、自分の心は清々しい(すがすがしい)」と満足そうに言いました。
※須賀(すが)に来て「清々しい(すがすがしい)」
またその時、雲が立ち上っていたので、その様子を見て次のような和歌を詠みました。
八雲立つ (やくもたつ)
出雲八重垣 (いずもやえがき)
妻籠みに (つまごみに)
八重垣作る (やえがきつくる)
その八重垣を (そのやえがきを)
この和歌が一番最初に作られた和歌とされています。
このようにヤマタノオロチを倒したスサノオは、愛するクシナダヒメと幸せな結婚生活を送り、子宝に恵まれます。
そしてその6代後の子孫が、出雲大社に祀られる神様・大国主命(オオクニヌシノミコト:以後オオクニヌシ)なのです。
なお、このスサノオの「ヤマタノオロチ退治」神話のあと、『古事記』の舞台はこのオオクニヌシのストーリーへと続いてゆきます。
スサノオのヤマタノオロチ退治の神話とドラクエ3やシン・ゴジラとの関係を解説!
ドラクエ3と「ヤマタノオロチ退治」神話との関係性
これは動画を見てもらえれば分かる通り、ドラクエ3に登場する「やまたのおろち」を倒すと宝箱が現れ、中には「くさなぎのけん」がでてきます。
まさにこの「ヤマタノオロチ退治」神話をゲームのストーリー内で使っているわけです。
シン・ゴジラと「ヤマタノオロチ」神話との関係性
2016年に公開された「シン・ゴジラ」の中で、ゴジラを倒すために立てられた作戦が「ヤシオリ作戦」という名前でした。
その作戦内容は、血液凝固剤をゴジラの体内に流し込み、ゴジラを凍結させてしまうというものです。
そして、そのヤシオリ作戦の実行部隊に付けられた名前が「アメノハバキリ」です。
「ヤシオリ作戦」という名前は、ヤマタノオロチ退治に使われた酒の名前ですね。
また、実働部隊の名前の「アメノハバキリ」はスサノオがヤマタノオロチを斬った剣の名前です。
このように「ヤシオリ作戦」は、『古事記』の「ヤマタノオロチ退治」神話の影響を受けて、ゴジラをヤマタノオロチに見立てて作られた作戦であることがわかります。
『古事記』のスサノオの神話は疫病神・不良少年の成長物語
『古事記』で描かれるスサノオは、生まれた時は泣いてばかりで災害をもたらす疫病神のような存在でした。
それは、生みの親であるイザナギが見かねて追放してしまったことでもわかります。
その後も姉のアマテラスを困らせることばかりの暴れん坊で、さながら思春期の不良少年がグレている姿に写ります。
しかし、この「ヤマタノオロチ退治」の神話では、愛するクシナダヒメの為に策をめぐらし、クシナダヒメの父・アシナヅチの協力も得ながら、見事に怪物ヤマタノオロチを倒すことに成功します。
また、ヤマタノオロチを退治して手に入れた「草薙剣」を、迷惑をかけた姉のアマテラスに献上するなど、それまでのスサノオでは考えられない成長ぶりを見せます。
このように、『古事記』で描かれるスサノオは、疫病神・不良少年が更生していく成長物語のキャラクターのようです。
さて、スサノオというと漫画「NARUTO(ナルト)」に登場するサスケの術(技)を思い浮かべる人もいると思います。
そのサスケも漫画のストーリーの中で、勝手な行動をしたり主人公ナルトに敵対したりと、さながら『古事記』の神話のスサノオそのもののようです。
ただ、最後はナルトと仲直りし、正真正銘の大人になったサスケはナルトを助ける存在となりました。
サスケの使う術としてのスサノオも、始めは骨が見える不完全な形でしたが、物語がすすむにつれて完成体へと成長しました。
こうしてみると、サスケは『古事記』の神話のスサノオの姿に重ねて描かれていたのかもしれません。
このように、『古事記』の神話のスサノオは、ゲーム、映画、漫画など、様々なところで影響を与えています。
ただ、スサノオだけではなく、『古事記』の日本神話はいたるところに影響を与えています。
最近では人気漫画「鬼滅の刃」も日本神話に登場する火の神様と関係があります。
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このように、様々な作品に影響を与えている『古事記』の日本神話。
内容をしっていると、これらの漫画やアニメをさらに深く楽しむことができます。
これをきっかけに、意外と知られていない『古事記』の日本神話に触れてみてはいかがでしょうか。