『千と千尋の神隠し』で主人公の荻野千尋は異世界に迷い込み、そこで湯婆婆に名前をとられて働くことになりましたよね。
千尋以外にもハクが名前を思い出せなかったりするなど、この物語は「名前」が重要な要素になっていると言ってもいいでしょう。
では、名前をとられるということは、一体どういうことを意味しているのでしょうね?
そこで、この記事ではそのことについて掘り下げつつ、いざ千尋が湯婆婆と契約を結んだ時に名前を間違えて書いた理由についても考察しています。
目次
『千と千尋の神隠し』千尋が名前を奪われる意味は?
では千尋が名前をとられるシーンを振り返りながら、それが一体何を意味しているのかについて考えてみましょう。
湯婆婆に名前を奪われる
千尋は異世界に迷い込んでしまい、とまどっているところをハクに助けられます。
ハクは、この世界に来た者は湯婆場から仕事をもらわなければ動物に姿を変えられてしまうと言い、何を言われても「働かせてほしい」と言わなければいけないと千尋に忠告しました。
そして、いざ湯婆婆のもとに行くと、さんざん嫌味な言葉を投げかけられますが、千尋はそれに屈することなく「働かせてほしい」と言い続けたのです。
すると、湯婆婆は渋々契約書を取り出して、そこに名前を書くように千尋に命じました。
そして千尋が契約書に自分の名前を書くと、湯婆婆はそこに書かれた名前を魔法で分解してしまい、「千」の一文字だけを残して「今からお前は"千"だ」と言って本当の名前を奪ってしまったのです。
名前を奪われて自由を奪われる
さて、では名前をとられるということは一体何を意味しているかというと、ひとつには自由を奪われることですよね。
千尋は湯婆婆に名前をとられてしまったことで、湯婆婆のもとで働くことになり、完全に自由を奪われました。
油屋では朝から晩まで働き、リンや他の従業員と一緒に大部屋で寝食をともにすることを余儀なくされてしまいましたよね。
千尋と同じように、本当の名前を失ったハクも、湯婆婆の言いなりにならざるを得ず、完全に自由を奪われていました。
個性が無くなることのメッセージ
名前をとられることは自由を奪われることでもありますが、それは言い換えれば個性を奪われることでもあります。
皆が同じように朝から晩まで働き、同じよかっこうで同じ場所で寝起きしていて、当初は湯婆婆も千尋がいなくても全然関係ないといった口ぶりでした。
また、カオナシが砂金を出して注目を集めていた時は、皆同じようにカオナシをもてはやし、皆同じように欲望をむき出しにして砂金を奪い合っていましたね。
このように、湯婆婆のもとで働く人は皆同じような生活を強いられてしまい、そうなると必然的に個性は埋もれてしまうのはもちろんのこと、心のゆとりがなくて浅ましい姿をあらわにしていました。
つまり、名前をとられることの意味は、自由を奪われることだけでなく個性も消失し、その結果、心のゆとりが無くなって自分の欲望を抑えきれずに浅ましくなってしまうことを示しているのだと思います。
『千と千尋の神隠し』は名前を取り戻す物語とも言えますが、それは私達にそういった個性がなく浅ましい人間にならないように、というメッセージが込められているのではないかとも思えてきますよね。
契約書に名前を書き間違いした理由
さて、千尋は湯婆婆と契約を結ぶ為に名前を書くシーンがありますが、実はこの時千尋は自分の名前を間違って書いています。
千尋の本名は「荻野千尋」ですが「荻」の字の「火」の部分が「犬」になっているのです。
この間違いについては様々な憶測が飛び交っているので、それについていくつかご紹介していきましょう。
あえて間違えた
千尋が自分の名前を間違えた理由のひとつは、千尋があえて漢字を間違って書いたというものです。
間違った字を書いて契約すれば、仮にあとで何かがあった時でも「これは私ではありません」と逃げ切れると思い、千尋がとっさに機転をきかせあえて漢字を間違ったということです。
ただ、個人的には、まだあどけない10歳の少女がとっさにそこまで判断できるのか、それに異世界にきて間もない千尋がそこまで機転が利くとは考えにくいなとは思います。
緊張して間違えた
機転を利かせてあえて間違えたのとは反対に、千尋は緊張のあまり自分の字を間違って書いてしまったというものです。
契約書という大事な書類で自分の名前の漢字を間違えるか?と思う人もいるでしょうが、これはありえる話だと思います。
千尋はまだ10歳の少女で、湯婆婆の高圧的な態度に緊張しない方がおかしいでしょうし、まだ自分の名前を漢字で書けるようになって間もないでしょうから、間違うのは無理もないと思います。
ハクが魔法をかけていた
千尋は異世界に迷い込んでしまった後、すぐにハクと会い、千尋のことを心配して助けてくれました。
その時からすでに千尋に魔法をかけていて、湯婆婆と契約を結ぶ時に自分の名前を書かないようにさせたという説もあります。
確かに、ハクは千尋と会ってすぐに「ここに来てはいけない」と千尋を心配していますから、魔法をかけることもできたかもしれませんね。
すでに名前を忘れかけていた
名前を奪われると自分の本当の名前を忘れてしまうと思っていましたが、そもそもが前提が違っていて、実は湯婆婆に名前を奪われたから名前を忘れるのではなく、この世界に入り込んでしまったから忘れてしまうという説です。
そして、千尋は湯婆婆のところに行く途中で、すでに自分の名前をわすれかけていた為に自分の名前の漢字を書き間違ったというものです。
確かに、ハクも湯婆婆の弟子になったから名前を忘れたのではなく、名前を忘れて思い出す為に魔法を使えるようになろうと弟子入りしたようですし、そのことを含めて考えると、この異世界に入ったから本当の名前を忘れてしまうという方が正しいのかもしれませんね。
宮崎駿監督の遊び心
ジブリ作品は随所に遊び心が見られ宮崎駿監督の遊び心も面白さの一つですよね。
そう考えると、この重要なシーンであえて千尋が漢字を間違うことで、「一体これは何を意味するんだ」と理由を探す人を見て楽しんでいるのかもしれません。
こういう遊び心があるからこそ、答えは一つではなく人それぞれの感情が生まれ、より作品を楽しむことができるのだと思います。
こうやって謎を究明することも『千と千尋の神隠し』の醍醐味であって、それこそが宮崎駿監督が求めたものなのかもしれませんね。
まとめ
- 『千と千尋の神隠し』で千尋が名前を奪われたことは自由と個性を失ったことを意味している。
- 名前を奪われたことの意味は、個性がなく浅ましい人間にならないようにというメッセージが込められている。
- 千尋が契約書に名前を書く時、自分の名前の漢字を間違えたのは様々な理由が考えられる。
- 千尋が名前を間違ったことは宮崎駿監督の遊び心で、それを探ろうとすることが宮崎駿監督の求めたことだと考えられる。
当ブログでは『千と千尋の神隠し』にまつわる記事をいくつか掲載しています。
興味のある方はこちらの記事もぜひ参考にしてみて下さい。
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